共有持分の売却時に確定申告は必要?|税理士が徹底解説|共有持分の売却・買取
共有持分の売却時に確定申告は必要?|税理士が徹底解説
目次
「共有持分の不動産を売却したけど、確定申告しなくちゃだめ?」
「確定申告する場合、どんな手続きをすればいい?」
この記事では、共有名義不動産の「共有持分」を売却した場合、確定申告が必要なのか、不要なケースはあるのかを取り上げました。
共有持分の不動産を売却された方は、ぜひ最後までお読みください。
関連記事:共有持分にかかる税金一覧~知って得する税制メリットもご紹介~
1.共有持分の不動産売却において確定申告は必要か?
共有持分の不動産を売却した場合、確定申告が必要かどうかを確認しましょう。
確定申告をするかしないかは「所得が増えた」のかどうかで決まります。
売却によって発生した売却益を「譲渡所得」といい、譲渡所得がある場合は「譲渡所得税と住民税」を納付するため、確定申告が必要です。譲渡所得が0円(譲渡損失)になった場合、確定申告は任意となります。
しかし、譲渡損失が生じたケースでは「譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」が適用できる可能性があります。不動産の売却により損失が出た場合、ケースによっては税金の軽減措置が受けられるのです。
具体的には、以下のようなケースが該当します。
- 住宅を住宅ローン残高よりも低い価格で売却した
- 住宅を売却し、新居を住宅ローンを組んで購入した
特例の詳しい適用条件は、以下サイトでご確認ください。
参考:
国税庁 No.3390 住宅ローンが残っているマイホームを売却して譲渡損失が生じたとき(特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例)
国税庁 No.3370 マイホームを買い換えた場合に譲渡損失が生じたとき(マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例)
特例が適用できる場合は、確定申告をすれば節税が可能です。不動産を売却した場合にかかる税金や特例については、以下の記事でも解説していますので、参考にしてください。
関連記事:相続した不動産を売却する時にかかる税金を税理士が解説します
2.共有持分売却時の税金計算3ステップ
それでは、共有持分の不動産を売却した場合の税金計算を解説します。税金計算は以下の3ステップで行います。
- ステップ1 課税される譲渡所得を算出する
- ステップ2 譲渡所得を各人の持分割合で按分する
- ステップ3 保有期間に応じた税率をかける
少し複雑な部分もあるので、しっかり確認しながら進めていきましょう。
2-1 課税される譲渡所得を算出する
譲渡所得のうち、実際に課税される金額を課税譲渡所得といいます。課税譲渡所得は、以下の計算式で算出します。
【課税譲渡所得の算出】
- 課税譲渡所得=①譲渡価格-②取得費(購入価格-減価償却費)-③譲渡費用-④特別控除
①譲渡価格
譲渡価格は共有持分の不動産を売却して、受け取った金額です。売却価格や譲渡収入金額ともいいます。
②取得費
取得費は売却した不動産を購入・取得した時にかかった費用です。不動産そのものの価格に加え、以下の費用も取得費に該当します。
- 不動産購入時の仲介手数料
- 売買契約書の印紙代
- 司法書士への報酬
- 登録免許税
- 不動産取得税
建物については建てたときからの年数で減価償却するため、不動産の購入価格から減価償却費を差し引いて算出します。土地については年数での価値は目減りはしないため、減価償却は不要です。
例えば木造住宅の場合、耐用年数が33年、償却率が0.031と決められています。減価償却費は以下の式で算出できます。
- 減価償却費=建物購入代金×0.9×償却率×経過年数
木造住宅を4,000万円で購入し、10年所有していた場合の減価償却費は以下のようになります。
4,000万円×0.9×0.031×10=1,116万円
つまり、購入から10年経過した木造住宅の取得費は2,884万円と計算されます。
また、相続で得た不動産については、被相続人(故人)が購入した時の額を計上可能です。もし購入価格がわからなければ、譲渡価格の5%を取得費として計上します。これは概算取得費といい、購入価格が不明な場合などに使用できます。
概算取得費は実際の購入価格より低くなる場合が多いため、なるべく本当の購入価格がわかる資料を探すのがよいでしょう。
③譲渡費用
譲渡費用は不動産を売却した際にかかった経費です。具体的には以下などが該当します。
- 不動産を売却するために支払った仲介手数料
- 売主負担の印紙税
- 土地売るために建物を取り壊した際の解体費用と建物の損失額
譲渡費用は売却するためにかかった費用のため、リフォームの修繕費などは含まれません。
④特別控除
特別控除は一定の条件を満たす不動産の売却の際に、譲渡所得から一定額を差し引ける制度です。建物の売却の場合は、3,000万円の特別控除が受けられるケースが多いでしょう。共有持分の売却の場合、共有者ごとに3,000万円の特別控除の適用が可能です。
【3,000万円の特別控除 適用条件の一部】
- 実際に住んでいた家(空き家ではない)
- 空き家になって3年経過した年の年末までに売却
- 1もしくは2に該当する家と土地を両方売却
ただし、土地のみ、もしくは建物のみが共有の場合、3,000万円の特別控除が受けられない共有者もいます。
【例】
- 建物を母子で共有名義・土地を母単独名義 →母子共に3,000万円の特別控除が受けられる
- 建物を母の単独名義・土地を母子の共有名義 →母のみ3,000万円の特別控除が受けられ、子は受けられない
この特例は「マイホーム」に対して適用されるため、建物の持分がない場合は対象外となってしまいます。
特例は他にも「空家の3,000万円の特別控除」や「10年超所有軽減税率の特例」などがあります。
「空家の3,000万円の特別控除」は相続で得た不動産が空き家の場合、一定の条件を満たせば3,000万円の特別控除が適用されるものです。
参考:国税庁 No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
「10年超所有軽減税率の特例」は、10年以上所有した自宅を売却した場合に税率を低くできる特例です。
参考:国税庁 No.3305 マイホームを売ったときの軽減税率の特例
2-2 譲渡所得を各人の持分割合で按分する
共有持分ではない不動産売却の場合は、2-1で解説した「課税譲渡所得の算出式」で税金の対象となる額(課税譲渡所得)が算出できます。しかし共有持分の売却の場合、課税譲渡所得の算出の仕方が通常と少し異なります。
共有持分の場合は共有者それぞれが特別控除を適用できるため、まず譲渡所得を案分する必要があるのです。
では、例を使って解説します。
相続で得た不動産の共有持分(母50%、子2人が25%ずつ)を6,000万円で売却したケースを想定で説明します。
譲渡所得は以下の式で算出しましょう。
- 譲渡所得=①譲渡価格-②取得費(購入価格-減価償却費)-③譲渡費用
6,000円で売却したので、譲渡価格(①)は6,000万円です。取得費(②)は不明、譲渡費用(③)が200万として計算すると以下のようになります。
6,000万円 -(6,000万円×5%+200万円) = 5,500万円(譲渡所得)
※取得費が不明の場合は、譲渡価格の5%
譲渡所得を共有者の持分の割合で按分します。
- 母 5,500万円 × 50% = 2,750万円
- 子1 5,500万円 × 25% = 1,375万円
- 子2 5,500万円 × 25% = 1,375万円
3,000万円の特別控除がそれぞれに適用できるため、このケースでは課税譲渡所得が0円となりました。
2-3 保有期間に応じた税率をかける
2-1〜2の計算を行い、課税譲渡所得が算出できたら、保有期間に応じた税率をかけて税額を算出します。
税率は短期間で不動産の購入と売却を繰りかえす“土地ころがし”を防ぐ目的もあり、不動産の所有期間の短い方が税率は高く設定されています。
税率は以下の図でご確認ください。
売却した年の1月1日時点での保有期間 | 所得税 | 住民税 |
---|---|---|
5年以下(短期譲渡所得) | 30% | 9% |
5年超(長期譲渡所得) | 15% | 5% |
※平成25年から令和19年まで所得税には基準所得税額×2.1%復興特別所得税が付加されます
3.共有持分売却時における確定申告の流れ
それでは、共有持分を売却した場合における確定申告の流れを確認していきましょう。
前提として、不動産の共有持分売却によって得た所得は「分離課税」なので、ほかの所得とは合算せずに計算しなくてはなりません。
3-1 確定申告は誰がする?
共有名義不動産全体を売却した場合、確定申告は共有者がそれぞれ個別におこなう必要があります。
共有持分のみを売却した場合は、当然ながら売却した本人が確定申告をおこないます。
3-2 確定申告はいつする?
確定申告の期間は原則、毎年2月16日から3月15日までです。
この期間に、前年の1月1日~12月31日までの収入を報告します。例えば7月に不動産の共有持分を売却した場合、翌年の2月16日~3月15日の期間内で確定申告を行います。
不動産の売却時期と確定申告までかなり期間が空く場合、申告漏れを防ぐためにも前もって確定申告の準備をしておきましょう。
3-3 確定申告に必要な書類
共有持分に限らず、不動産を売却した場合の確定申告の書類は、通常の確定申告とはフォーマットが異なります。確定申告には非常に多くの書類が必要になるため、下図を参考に早めに準備をしておきましょう。
書類 | 入手先 |
---|---|
確定申告書B様式(第一表) | 税務署/国税庁HP |
確定申告書(分離課税用) | 税務署/国税庁HP |
譲渡取得の内訳書 | 税務署/国税庁HP |
不動産購入時の売買契約書のコピー | 紛失した場合、売主や仲介業者から入手 |
不動産売却時の売買契約書のコピー | – |
仲介手数料などの譲渡費用が分かる領収証のコピー | – |
取得費用が確認できる領収証のコピー | – |
登記事項証明書 | 法務局の窓口 |
本人確認書類(マイナンバー・免許証等) | ※国税庁確定申告書等作成コーナーからの確定申告の場合は不要 |
源泉徴収票 | 勤務先 |
戸籍の附表など、居住していたことを証明する書類 ※3,000万円特別控除の適用 | 市区町村村役場 |
3-4 確定申告における書類の提出方法
確定申告における書類の提出方法は3つあります。
- 国税庁 確定申告書等作成コーナーからの電子申請
- 所轄税務署に提出
- 所轄税務署か業務センターに送付する(郵便物もしくは信書便のみ)
管轄の税務署はこちらから調べられます。
不動産売却時における確定申告の書類提出先は、住民票のある管轄の税務署です。不動産所在地の管轄税務署ではありませんので、間違えないように注意してください。
4.共有持分売却時の確定申告をしないとどうなる?
共有持分を売却して所得を得たにもかかわらず、確定申告せずに放置し続けると脱税と判断されてしまいます。
個人事業主などの場合、自分で確定申告を行わなければならないため、毎年のお約束として確定申告が染みついています。
一方で、サラリーマンなどの会社勤めやパート勤務の場合、会社が代わりに税金の計算や納税を行っているため、確定申告に対して意識が薄い方もいるでしょう。
しかし、不動産を売却して所得が発生した場合、必ず自分で確定申告をしなくてはなりません。うっかり申告期限を過ぎてしまい、そのまま放置すると、重大なペナルティが発生する場合もあります。
万一に備え、確定申告しなかった場合の流れを確認しましょう。
4-1 税務署から手紙が届く
不動産を売却した売主が申告期限をすぎても確定申告を行わない場合、税務署は売主に対し「譲渡所得の申告についてのお尋ね」という書類を送付します。
位置づけとしては、確定申告をうっかり忘れてしまった人へのお知らせ(警告)です。
不動産所有者のデータは法務局の不動産登記簿で管理されており、税務署も不動産の所有権移転の情報は把握しています。不動産は資産価値が高いため、税金も高額になります。そのため、税務署も不動産売買による大きなお金の動きは注視しているのです。
「譲渡所得の申告についてのお尋ね」は譲渡所得が0円だった売主にも届きます。その場合は、譲渡所得額などを記入して返送しましょう。
4-2 期限後申告をおこなう
確定申告しておらず「譲渡所得の申告についてのお尋ね」が届いた場合、早急に税務署に行き確定申告の手続きをしましょう。
毎年2月16日~3月15日が申告期間ですが、期間を過ぎても「期限後申告」が可能です。期限後申告とは、申告期間を過ぎておこなう確定申告を意味します。
早急に納税の意思を示し、申告期限から1ヶ月以内に期限後申告すればペナルティは発生しません。「お尋ね」が来た場合は、時間を空けずにすぐに対応しましょう。
4-3 申告しない場合のペナルティ
確定申告をしない場合のペナルティは、主に以下の2種です。
- 無申告加算税
- 延滞税
「無申告加算税」とは、期限内に確定申告しなかったために加算される追徴課税です。納税額が50万までは納税額の15%、納税額が50万を超える場合は納税額の20%を追納しなくてはなりません。
ただし、税務署の調査が入る前に期限後申告をした場合、無申告加算税を5%に軽減できます。また申告期限から1ヶ月以内に期限後申告すれば、無申告加算税は発生しません。
「延滞税」とは、申告期限から時間が経つごとに金額が上がる追徴課税です。レンタルの延滞料金のイメージに近く、利息に相当する税です。納税期限から2ヶ月経過で原則7.3%、2ヶ月以降は原則14.6%の延滞税が課せられます。
さらに重い罰則として「重加算税」があります。申告しなくてはならないのを知りながら無視した場合など、悪質な隠ぺいをしたと判断されたときに対象になります。
脱税を税務署は見逃してくれません。確定申告は期限を守り、しっかり対応しましょう。
以下の図3に共有持分を売却して所得を得たにもかかわらず、確定申告をしなかった場合の流れをまとめました。
(図3_不動産売却時に確定申告しなかったら)
まとめ
共有持分の不動産を売却した場合、譲渡所得がある場合は「確定申告」が必要です。確定申告は毎年2月16日~3月15日の期間内に行います。共有持分の売却の場合、共有者それぞれが自身で確定申告を行いましょう。
確定申告をうっかり忘れてしまった場合、1ヶ月以内であればペナルティなく「期限後申告」できます。しかし、そのまま放置すると、無申告加算税や延滞税といった追徴課税が課せられるため注意が必要です。
共有持分における不動産売却の場合、どの特別控除を適用すればよいか判断に迷う場合が多いでしょう。
そのような時は、共有持分の取り扱いに長けた不動産会社に相談してみるのも一つの手です。中央プロパティーは税金や確定申告の不安にも対応いたします。気軽にお問い合わせください。
この記事の監修者
税理士
税理士。東京税理士会品川支部所属。日本税務会計学会訴訟部門所属。福島健太税理士事務所代表。不動産デベロッパーから税理士に転身した経歴をもつ不動産と税のスペシャリスト。共有持分で不動産を相続される方が相続税を相談する税理士として多くの顧客を得る。趣味は釣り。