持分放棄でかかる税金を解説~贈与税に注意~
持分放棄でかかる税金を解説~贈与税に注意~
不動産の所有方法の中でも、問題が起こりやすいのが共有持分です。
分割が難しい土地などの権利を複数人で所有する形態は、土地活用の不便さだけでなく、人間関係を通したさまざまな問題が生じます。
共有者との関係が良好でないために、持分放棄を検討する方もいるほどです。
この記事では共有持分放棄について取り上げました。
お読みいただくと、持分放棄をする場合にかかる税金の種類や額、不動産登記の必要書類、手続きの流れなどが分かります。
<この記事でわかること>
- 持分放棄とは持分放棄したらかかる税金の種類
- 持分放棄した場合にかかる税金額
1.共有持分とは?
共有持分とは、一つの物の権利を複数人が共有している場合の、各人が持っている所有権の割合を指します。
例えば、親が亡くなって実家の土地と建物を子どもたち4人で相続した場合、遺産分割協議を経てその土地と建物の共有持分はそれぞれ「4分の1」となります。
次に、共有持分の放棄についてです。相続登記を経て各持分を取得した子どもたち4人のうち1人が共有持分の放棄を希望した場合、自分の意志のみで共有持分は放棄できます。ほかの共有者に連絡の上で、持分の移転登記申請を行えば、放棄した持分はほかの共有者にそれぞれの持分の割合で分けられます。
持分放棄の理由はさまざまですが、共有名義(共有で管理)のわずらわしさが原因の場合も多いでしょう。不動産を自分の独断で自由に利用できない場合も、共有者である以上、持分割合に応じて毎年の固定資産税を納付しなくてはなりません。
誰も管理できずに空き家のまま荒れ果てた実家を、それでも手放したくないと主張する兄弟がいて、悩みの種になるのも珍しくないでしょう。また、土地の立地が悪いため使い道がなく空き家のまま持て余している場合もあれば、共有者との相性が悪く、関わりを断ちたいため放棄を検討する方もいます。
そこで持分放棄をすると、共有者とのやりとりや固定資産税の負担が不要になります。現在抱えている負担が減るのが、持分放棄の第一のメリットといえるでしょう。
1-1 持分放棄と相続放棄のちがい
共有持分の放棄と区別がつきにくいのが「相続放棄」です。
不動産の所有者が亡くなり相続が発生すると、相続人は不動産を含めたすべての財産について、相続するか・しないかの選択を行います。この時「相続しない」の選択が「相続放棄」を指します。
一方財産を引き継ぐことを選択した場合、相続登記を行います。相続人が複数いて共有名義にするならば、相続登記のタイミングで各人の共有持分の割合も登記簿上に記載されます。この登記簿上に一度記載された後に共有持分を放棄するのが「持分放棄」です。
共有持分の放棄については、以下の記事で詳しく解説していますので、参考にしてください。
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知らないと損する!共有者の同意なく共有持分を放棄する方法【2023年最新版】
なお、基本的に相続では、マイナスの財産を含めたすべての財産を相続するか・しないかの選択になります。一部のみ選んで相続などは認められていません。
しかし2023年4月に施行された相続土地国庫帰属制度を利用すれば、共有名義の不動産も共有者全員の合意の元、国庫に帰属させる形で実質的な放棄が可能となりました。
この制度についても、以下の記事で解説しています。
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1-2 持分放棄と贈与のちがい
放棄した持分はほかの共有者に渡りますが、では贈与とは何がちがうのでしょうか。
放棄でも贈与でも、相手方が取得した共有持分が贈与税の課税対象になるのは同じです。
しかし贈与であれば、複数いる共有者の誰にどのくらい渡すかを決めたり、第三者に贈与できたりと、贈与する側の意志が反映できます。
放棄の場合、共有者全員にそれぞれの共有持分の割合に応じて自動的に分配されます。特定の共有者に多めに渡したいなどの操作はできません。
また、放棄もしくは贈与で得た共有持分は取得費(不動産を得るための購入代金などの合計額)の取り扱いが異なります。
贈与の場合、贈与者の不動産取得日・取得費を引き継ぎますが、放棄の場合は引き継ぎません。このちがいは、共有持分を売却する際の譲渡所得額に現れます。贈与された不動産は、引き継ぐ取得費を超える部分は二重課税されます。
2.共有持分は放棄できる?
それでは次に、共有持分の放棄が共有者の同意が必要なのか、また持分放棄に必要な手続きである登記変更の流れを解説していきます。
2-1 持分放棄はほかの共有者の同意なしでできる
共有名義の不動産全体を手放すのは、共有者の総意でなくてはできません。しかし自分の共有持分であれば、自分の意思だけで放棄は可能です(民法206条)。
とはいえ、思っているだけでは実際の共有状態は変わらないため、ほかの共有者に放棄の旨を書面の通知などで伝える必要があります。
また、例えば固定資産税を支払う所有者の情報は、不動産登記簿が元になっています。実質的に持分放棄を成立させるためには、不動産登記簿の名義変更(書き換え)をしなくてはなりませんが、これには共有者の協力が必要です。
放棄された持分はほかの共有者へ帰属します(民法255条)。共有者が複数人の場合、それぞれの持分の割合に応じて放棄持分を取得します。
また、ほかの共有者の放棄等によって最後の一人となった場合、その人の単独名義となるため放棄はできなくなります。
2-2 持分放棄には登記変更が必要
それでは、持分放棄を成立させるための登記変更の流れは以下の3STEPです。
- STEP1 共有者に連絡(書面で通知)
- STEP2 必要書類の準備
- STEP3 共有持分移転登記の申請(共有者全員の同意)
それぞれ順番に解説していきます。
2-2-1 STEP1 共有者に連絡(書面で通知)
持分放棄の意思を、ほかの共有者すべてに伝えます。通知した証拠を残すためにも、内容証明郵便で送付しましょう。
2-2-2 STEP2 必要書類の準備
登記の手続きに必要な書類を準備します。具体的には以下の通りです。
持分放棄する本人の必要書類
登記済証または登記識別情報通知 印鑑証明書(発行日から3ヶ月以内のもの) 固定資産税評価証明書 実印 本人確認書類 |
共有者全員の必要書類
住民票 認印 本人確認書類(委任状・印鑑証明) |
2-2-3 STEP3 共有持分移転登記の申請(共有者全員の同意)
必要書類が揃ったら、放棄する不動産の管轄の法務局に書類を提出します。共有持分の移転登記は、共有者全員で共同申請しなくてはなりません。立ち会いができない共有者には、委任状を作成してもらいましょう。
法務局で受付後、問題なければ2週間ほどで登記完了証と登記識別情報が交付され、放棄の手続きは完了です。
このように、放棄は自分の意志のみで行えるものの、放棄にともなう手続きは共有者の全面的な協力が必要です。しかし持分放棄をほかの共有者が反対していたり、面倒な書類収集を嫌がるケースも少なくありません。
そのような場合の打開策として「登記引取請求訴訟」があります。これは裁判所からの命令で、共有者に登記を強制する仕組みです。
実際に訴訟を起こさなくても、登記引取請求訴訟を起こす旨を告げれば共有者の協力を得られる可能性が高いでしょう。
3.持分放棄をした場合にかかる税金
持分放棄によって発生する税金や、専門家に依頼した場合の費用を解説します。
持分放棄した場合にかかる税金と費用は以下の5つです。
- 贈与税
- 不動産取得税
- 固定資産税
- 登録免許税
- 司法書士費用
それでは、贈与税から確認していきましょう。
3-1 贈与税
1つ目は「贈与税」です。贈与税は共有持分を引き受けた共有者が納めます。贈与税の申告と納税の期間は決まっており、放棄された共有持分を受け取った年の翌年の2月1日~3月15日の期間内に行う必要があります。
例えば2023年の年明けに受け取った場合、2024年2月1日~3月15日が申告・納税期間です。受け取る時期によっては、1年以上期間が空いてしまいます。忘れないようにしっかり準備して申告しましょう。
贈与税額の算出は、まず贈与税の課税価格を算出します。
贈与税の課税価格の算出式
不動産の価格(固定資産税評価額×受け取る共有持分-基礎控除110万円=基礎控除後の課税価格 |
課税価格が算出できたら、下表に当てはめて贈与税額を算出します。
一般贈与財産用(一般税率)
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | – |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 60万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
例)不動産の価格が1,500万円の土地で、放棄持分が3分の1の場合
1,500万円×3分の1-110万円=390万円 390万円は400万円以下の税率が適用されるので、税率は20%390万円×20%=78万円-25万円=53万円 |
3-2 不動産取得税
2つ目が「不動産取得税」です。不動産取得税についても、相続税と同じく共有持分を受け取った側が納税する税金です。
不動産取得税の算出式
固定資産税評価額×3%※1×共有持分の割合=不動産取得税 |
※1 令和6年3月31日まで土地と建物(住宅)は軽減税率3%
参考:不動産取得税
例)固定資産評価額が2,000万円、持分の割合が1/2なら、2,000万円×3%×2分の1=30万円
3-3 固定資産税
3つ目は「固定資産税」です。固定資産税は1月1日時点の不動産所有者が納税します。持分放棄を行っても、その年の固定資産税は納める必要があります。
しかし公平性に欠けるため、一般的には持分放棄した人が納めるべき税額を日割りで算出し、持分を所有していた分のみ負担します。
固定資産税額の算出式
固定資産税評価額×1.4%=固定資産税額 |
固定資産税の標準税率は1.4%ですが、地方税のため、人口の少ない市町村ではこれより高い場合があります。
例)固定資産評価額が3,000万円の土地をAとBで共有持分2分の1ずつ、Aが3月31日に持分放棄した場合
3,000万円×1.4%=42万円(固定資産税額) 42万円×2分の1=21万円 ※1月1日~3月31日までの3ヶ月分の固定資産額は21万円×12分の3=52,500円 |
Aが納税済みの場合はBから差額の17万7,500円を受け取り、納税前の場合はAがBに52,500円渡す形で精算します。
3-4 登録免許税(登記費用)
4つ目は「登録免許税」です。登録免許税は不動産登記簿の書き換えにかかる税金です。持分放棄をする側が、持分放棄の登記手続きを行う際に納めます。
登録免許税額の算出式
固定資産税評価額×2%(1,000分の20)×共有持分の割合=登録免許税額 |
例)固定資産税評価額1,000万円の建物持分4分の1を放棄、かつ建物の敷地である固定資産税評価額2,000万円の土地の持分4分の1も放棄した場合
建物の登録免許税:1,000万円×2%×4分の1=5万円 土地の登録免許税:2,000万円×2%×4分の1=10万円 合計15万円 |
3-5 司法書士費用
5つ目が「司法書士費用」です。これは税金ではなく、司法書士に登記手続きを依頼する際の報酬です。依頼は任意ですが、前述通り共有持分の移転登記は、共有者全員の必要書類の収集や手続きが煩雑です。特に共有者が多い場合などは、司法書士への依頼を検討するのがよいでしょう。
司法書士への報酬の相場は、依頼先によって異なるもののおおよそ1件3~8万円です。依頼する場合、念のため事前に金額を確認しましょう。
4.持分放棄にかかる税金シミュレーション
それでは、持分放棄にかかる税金をシミュレーションしてみましょう。
固定資産評価額2,000万円の土地をABが共有持分2分の1ずつ所有、Aが持分放棄した場合
贈与税:2,000万円×2分の1-110万円=890万円 890万円×40%-125万=231万円(Bの負担) 不動産取得税:2,000万円×3%×2分の1=30万円(Bの負担) 固定資産税※2:2,000万円×2%×2分の1=20万円(Aの負担) 登録免許税:2,000万円×2%×2分の1=20万円(Aの負担) Aの負担額合計:40万円Bの負担額合計:261万円 |
持分放棄は自分の意志で決められるものの、成立させるには持分を受け取る側の一時的な金銭負担が大きくなります。
※2 固定資産税を持分放棄のタイミングで精算する場合、例えば3月31日に放棄したなら16,666円/月×3ヶ月=49,998円がAが本来負担すべき額となります。納税済みの場合、AはBから150,002円を受け取り、納税していなければ、AがBに49,998円を支払う形で精算します。
5.持分放棄以外で持分を手放す方法
ここまで持分放棄について解説してきました。最後に、持分放棄や贈与以外で共有持分を手放す方法について確認していきましょう。
まず、最もおすすめな方法である共有持分の売却から解説します。
5-1 共有持分を第三者に売却する
2-1で解説しましたが、持分放棄の手続きは簡単ではありません。
持分放棄は放棄した場合の金銭的メリットは税負担がなくなるのみですが、第三者への売却であれば売買金額である金銭対価を受け取れます。
自分の共有持分の売却なら、放棄と同じく自分の意志のみで行えます。対価が得られる分、持分放棄よりメリットは多いと言えます。
共有持分は、単独名義に比較して需要は少ないため売却しにくい傾向にあるのは確かです。しかし共有持分専門の不動産会社なら、共有持分の取り扱いを熟知しているため、適正な価格で売却先を見つけてくれるなど、柔軟な対応が可能です。
共有持分の売却の際には、共有持分専門の不動産会社へ依頼しましょう。
5-2 共有者間で持分を売買する
2つ目は、共有者間での持分の売買です。
自分がほかの共有者の共有持分を買い取って単独名義にする、またはほかの共有者に自分の持分を買い取ってもらう方法です。
双方にメリットがありますが、購入する側に一定の資金が必要になります。また、使い道のない不動産では、だれも引き取りたがらないケースもあるでしょう。
相場からみてかなり安い価格で売買した場合、贈与税の対象になる可能性があるため、相場での売買が一般的です。
5-3 土地を分筆して単独所有にする
3つ目が、土地の分筆です。
不動産を共有持分の割合に応じて分筆し、それぞれを単独所有する方法です。うまく分筆できそれぞれ単独名義にすると、売却する際に共有名義より高値で売れる可能性があります。単独名義の不動産は、土地の利活用のしやすさから共有名義より需要が高くなっています。
しかし問題になるのが、同じサイズに土地を分けても、例えば道路に面している側とそうでない側で価値に差がでてしまうようなケースです。完全に公平に分けるのは難しいため、交渉が難航する可能性もあるでしょう。
まとめ
共有持分の放棄は、自分の意思のみで決められます。
しかし放棄を公にするには、不動産登記簿に記載された名義の書き換えが必要です。登記の手続きは必要書類が多く、共有者全員で共同申請しなくてはなりません。相続税・不動産取得税などの納付義務があるため、金銭面での負担もあります。
持分放棄以外の共有持分を手放す方法には、第三者への共有持分の売却・文筆・共有者間での売買がありますが、得られるメリットから売却がおすすめです。
中央プロパティーは、共有持分専門の不動産会社です。共有持分の売却を前提に、トラブルの解決から売却まで無料で対応しております。共有持分の問題を数多く解決してきた専門家集団が、共有持分について悩まれる方のお力になります。ぜひ一度お問い合わせください。
この記事の監修者
税理士
税理士。東京税理士会品川支部所属。日本税務会計学会訴訟部門所属。福島健太税理士事務所代表。不動産デベロッパーから税理士に転身した経歴をもつ不動産と税のスペシャリスト。共有持分で不動産を相続される方が相続税を相談する税理士として多くの顧客を得る。趣味は釣り。