共有名義不動産のリフォームによる贈与税回避のポイントと注意点
共有名義不動産のリフォームによる贈与税回避のポイントと注意点
共有名義不動産をリフォームする際、贈与税が発生するケースがあります。「リフォームになぜ贈与税が発生するの?」「我が家は贈与税の対象なの?」と疑問に感じる方も多いのではないでしょうか。
贈与税が発生するのであれば、できるだけ税負担を軽減したいですよね。
今回は、「共有名義不動産を持っている・リフォームを考えている」という方に向けて、リフォーム前に知っておきたい注意点と税負担回避の方法を詳しく解説していきます。
<この記事でわかること>
- 贈与税の対象となるケース
- 贈与税の対象になる理由
- 贈与税を軽減する方法
- 共有名義不動産リフォーム時の注意点
1. 共有名義不動産のリフォームには贈与税がかかることも
家が古くなってくると、住まいのあちこちにリフォームしなければならない箇所も多数見られるようになってきます。夫婦や親子で住んでいれば、リフォーム費用についてはどちらか一方が全額負担する、もしくは少し多めに出すというケースはよくあることです。ただし、それが贈与税の発生につながるかもしれません。まずは「贈与税とは何か」を贈与税が対象となる事例とともにご紹介します。
1-1 贈与税とは
贈与税とは、第三者から与えられた「贈与」に対し、その金額に応じて課せられる税金のことです。
親子や夫婦などの家族の間では、リフォーム工事で費用を出し合うケースはよくあります。ただし、この「お金を贈る」という行為は、自分の財産を相手に与える“贈与”となり、受け取った側はその金額に応じた税金を払わなければなりません。
贈与税は、一般的な贈与となる「一般贈与財産」、直系尊属からの贈与となる「特例贈与財産」と2つのパターンがあり、贈与された金額に応じて税率と控除額が異なります。
以下の表をご参考ください。
一般贈与財産の場合 | ||
---|---|---|
基礎控除後の贈与額 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | - |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
特例贈与財産の場合 | ||
---|---|---|
基礎控除後の贈与額 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | - |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円超 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
※父母、祖父母など直系尊属からもらった財産は「特例贈与財産」となり、それ以外であれば、「一般贈与財産」になります。
1-2 贈与税の対象になる主なケース
リフォーム費用が贈与税の対象になるのは次のようなケースです。
1-2-1 子が親名義の不動産をリフォームしたケース
共有名義ではなくとも、「親名義の家をリフォームしてあげたい」「子供の家のリフォーム費用を援助したい」というケースも贈与税の対象となります。
通常、建物に関する点検やメンテナンス、固定資産税の支払いなどの維持管理費用は、所有者が負担しなければならない費用とされているため、それ以外の人から援助を受ければ贈与となり税金の対象です。
「親のために・子供のために」とお互いに資金援助し合うこともあるかもしれませんが、贈与税の対象となり申告内容によっては納税義務が発生します。
1-2-2 夫婦の共有名義不動産のリフォーム費用を、どちらか一方が負担したケース
次に夫婦2人で所有している共有名義不動産のリフォームについてです。
夫婦で共に生活しているケースでは、夫、もしくは妻がリフォーム費用を全額負担することも珍しくありません。
しかし、前述の「維持管理費は所有者が負担すべき」という考えから、夫婦共有名義であれば、リフォーム費用は持分に応じるのが原則です。
そこで、夫婦の持分に対し、「リフォーム費用の負担割合が少ない方」に贈与税が発生します。
例えば、
・800万円のリフォーム費用
・夫婦の持分割合が2分の1ずつ
というケースでは、夫がリフォーム費用をすべて負担すれば、妻は400万円の贈与を受けたことに等しくなってしまうのです。
2. リフォームによる贈与税の計算方法
贈与を受けたうち、1年間のうち「110万円」までは非課税です。それを超えた場合は、申告のうえ納税が義務となっています。次に、リフォームで贈与税が発生する際の具体的な計算方法について見ていきましょう。
2-1 夫婦間でリフォーム費用を負担する場合
夫婦共有名義不動産を以下の条件でリフォームする場合について、ケース別に見ていきましょう。
【前提となる条件】
・リフォームの総費用→800万円
・夫婦の持分割合→夫1/2、妻1/2
ケース①:夫婦、それぞれが費用を負担
夫婦のどちらも費用を出し合う場合、「夫が400万円・妻が400万円」であれば、当然、持分割合に応じて費用を負担しているので贈与税はかかりません。
一方、夫婦の持分割合ではなく、「夫が700万円・妻が100万円」支払ったとしましょう。
すると、妻は本来400万円払わなければならないものの100万円しか払っていません。夫から300万円の贈与を受けたとみなされます。
ただ、前述したように年間110万円までは非課税のため、それを差し引いた金額(300万円-110万円)の部分に贈与税が加算されることになります。
ケース②:夫婦のどちらか一方が費用を負担
次に、夫婦のどちらから全額負担をしたケースについてです。この場合、持分割合が1/2ずつであるにもかかわらず、片方が全額負担しています。
たとえば、夫がリフォーム費用の800万円をすべて払った場合、妻は自分が払うべきはずの400万円を夫からの贈与で負担しているとみなされてしまうのです。
つまり、「400万円-非課税110万円」の部分に税率をかけた贈与税を支払うことになります。
贈与税を発生させないためには「夫婦共有名義の持分割合に応じて費用負担すること」、そして少しでも贈与税をおさえるには「両者が少しずつでも負担すること」が重要です。
どちらか一方が全額負担すると、贈与税は高額になるので注意しましょう。
2-2 親の支援を受ける場合
親からの支援としてリフォーム費用を受け取る際は、「2つの贈与」が絡む可能性があります。以下の条件でリフォームする場合について、ケース別に見ていきましょう。
【前提となる条件】
・リフォームの総費用→800万円
・夫婦の持分割合→夫1/2、妻1/2
ケース①:夫の親が夫にだけ800万円を援助・リフォーム費用を夫だけが負担する
夫の親が「夫」に対して800万円を贈った場合、800万円から非課税110万円を差し引いた部分に税率をかけた贈与税を夫が支払うことになります。
さらに、妻はリフォーム費用を負担しないため、「夫から400万円の贈与」を受けたことになります。つまり、400万円から110万円を引いた額が贈与税の対象になります。
このケースでは2つの贈与があるうえ、「夫の親から夫に対する贈与」の金額が大きいため、贈与税が高額になる可能性があります。
ケース②:夫の親が夫、妻にそれぞれ400万円を援助・リフォーム費用は持分割合に応じて負担する
こちらのケースの場合、リフォーム費用は夫婦共有名義の持分割合に応じて負担しています。ただ、夫妻のどちらも400万円の贈与を受けているため、「400万円-非課税110万円」の金額に税率をかけた贈与税を支払うことになります。
贈与税は夫にも妻にもかかりますが、「夫の親→夫」「夫の親→妻」と資金を分散することで対象額が減らせるので、全体的な贈与税が軽減できる方法です。
3. リフォームによる贈与税を軽減する方法
リフォーム工事は大きな費用が発生するため、一部だけでも援助があると本当に助かりますよね。ただ、せっかく受け取った金銭が「贈与税」の対象となって税金が発生するのはもったいなく感じるものです。
また、夫婦間でも共有名義となっているばかりに贈与税が発生することもあります。そこで、税額を軽減するためにできる方法をご紹介していきます。
3-1 リフォーム前に持分を移転
リフォームしようとしている共有不動産をリフォーム費用の負担割合に応じて、持分割合を移転する「所有権移転」の方法があります。
所有権移転では、相手に譲る部分に「贈与税」は発生します。ただ、こちらの贈与税については、固定資産税評価額をベースにした税額です。
通常、固定資産税評価額は築年数とともに下がっていきます。リフォームが必要になるほどの築年数(築20年、築30年以上など)になれば、贈与税もあまりかからない可能性があります。
つまり、リフォーム費用に対しての贈与税の額よりも“贈与による持分移転”によって税額をおさえられるというメリットを持つ方法と言えるでしょう。
また、“売買による持分移転”も手段としてはありますので、持分を移転する場合は、お互い移転原因をしっかり協議することが大切です。
たとえば、
・リフォームの総費用→800万円
・夫婦の持分割合→夫1/2、妻1/2
の場合です。
夫がリフォーム代金の800万円すべて支払うのであれば、妻の持分1/2を夫名義に移転させることでリフォームの贈与税をおさえられます。
ただ、建物の持分を移転するケースでは、贈与税や譲渡所得税、不動産取得税、登録免許税、司法書士への報酬などの費用もかかってきます。
贈与税をおさえるためには、ほかの出費を見逃さないようにしなければなりません。そのため、ほかの税金や手数料などの支出もあわせて考えることが大事です。
3-2 リフォーム後に持分で代物弁済
持分割合に応じて本来自身が負担すべきリフォーム費用について、それに値するものを代わりに渡す方法で、贈与とみなされない方法があります。よくあるのが自己持分を相手に渡して相殺させるようなイメージで、これを「代物弁済」と言います。
リフォーム後に自分の持分を代物弁済するという方法でも贈与税を減らせます。
ただし注意したいのが「もともとの不動産の価値」に加えて、「リフォームした費用」が現状の“家の価値”となる点です。
たとえば、
・もともとの不動産の価値→600万円
・リフォームの総費用→800万円(夫がすべて支払う)
・夫婦の持分割合→夫1/2、妻1/2
を例にして見ていきましょう。
このケースでは夫がすべてのリフォーム費用を出しているので、妻は夫から400万円の贈与を受けています。
・今の家の価値が1400万円(もともとの価値600万円+リフォーム費用を800万円)
・リフォーム後に妻が所有する分700万円(もともとの持分300万円+贈与400万円)
妻は、700万円のうちから、400万円に相当する持分を夫へと代物弁済する方法です。これにより、妻の持分は減ります。
ただし、代物弁済の場合、「持分をいったん売却して、そのお金で支払う」ことになるため、場合によっては譲渡所得税がかかる可能性もあります。
単に「リフォーム代金の代わりに持分を渡して贈与税をなくす」というのではなく、そのほかにどういった費用が発生するかも詳しく知っておくことが大事です。
3-3 贈与ではなく貸付にする
贈与と見なされて贈与税を発生させないためには「貸した」という状況にすることも方法のひとつです。
夫婦や親子で一緒に暮らしているとお金の貸し借りは曖昧になりがちですが、贈与税の対象としないためには、明らかに“贈与ではなく、貸付である”という証も必要になります。
金銭消費貸借契約書(借用書)などを作り誰がいついくら借りたのかを記載して、第三者にも貸し借りの事実が客観的に分かるようにお互いの銀行通帳に振込・返済をして履歴を残しておきましょう。
3-4 住宅取得等資金の非課税制度の利用
父母や祖父母など「直系尊属」から資金を援助してもらった場合、非課税にできる場合があります。
そもそも、年間110万円までの援助であれば非課税ですが、「住宅取得等資金の非課税制度の利用」であれば110万円を超えて援助してもらっても、受贈者の要件や増改築等の要件を満たせば非課税になります。
現時点(令和5年8月現在)では、この制度の適用期限が令和5年12月31日となっていますが、延長される可能性も考えられます。
また、この非課税制度は自動的に適用になるわけではないため、資金を援助してもらった翌年の確定申告を忘れずに行いましょう。
3-5 リフォーム費用を110万までに抑える
そもそも、リフォーム費用を基礎控除(非課税)の範囲内となる110万円以内におさえるのも贈与税を発生させない方法です。
たとえば、お住まい全体を大きく変えるようなフルリノベーションだと費用は数百万円、1,000万円にもおよぶことも珍しくありません。
一方で、部分的な改修工事(壁紙の交換・トイレの入れ替え・床の張替え・内窓の取り付け・洗面化粧台交換など)であれば、110万円以内におさめられるケースもあります。
ただし、この「110万円」は年間合計の金額のため、
・110万円以内のリフォームを数回に分けたところ、合計110万円を超えた
・工事費用以外で資金援助を受けたため、合計で110万円を超えた
などには注意しましょう。
まとめ
夫婦や親子での共有名義の不動産の場合、「どちらか一方が全額リフォーム費用を出す」「親から資金を受け取る」などリフォーム費用について深く考えずにいると贈与税が発生することがあります。
贈与税の税率は高く、思わぬところで高額な出費となってしまっては元も子もないですよね。
今回お伝えしたように贈与税を少なくできる方法をリフォーム前におさえておきましょう。
不動産を共有名義で所有していることで、予期せぬ税金負担が発生するケースがあります。
リフォームをきっかけに、持分を移転して共有名義を解消しておくという考え方も今後の贈与税問題の解決策のひとつとなるでしょう。
私ども中央プロパティーでは、共有名義の不動産を中心に取り扱っております。共有持分の譲渡や売却をご検討の方はご相談ください。
この記事の監修者
税理士
税理士。東京税理士会品川支部所属。日本税務会計学会訴訟部門所属。福島健太税理士事務所代表。不動産デベロッパーから税理士に転身した経歴をもつ不動産と税のスペシャリスト。共有持分で不動産を相続される方が相続税を相談する税理士として多くの顧客を得る。趣味は釣り。