兄弟で不動産を共有するとトラブルになりやすい理由基礎知識
兄弟で不動産を共有するとトラブルになりやすい理由
実家を兄弟で相続し、共有名義で所有することはおすすめできません。
なぜなら不動産の管理・処分方法、維持管理費や税金の負担などによって、兄弟の仲が悪化してしまう恐れがあるためです。最悪のケースでは共有名義不動産を巡って、絶縁状態になってしまうこともあります。
この記事では、兄弟で共有名義不動産を所有した際に起こり得るトラブル、不動産の共有状態を回避する方法について解説します。兄弟で不動産を共有する予定のある方の参考になれば幸いです。
<この記事でわかること>
- 兄弟で不動産を共有するケース
- 共有名義がトラブルになる理由
- 共有状態を解消する方法
1. 兄弟の共有名義で不動産を所有するケース
兄弟の共有名義で不動産を所有するケースは、実家の相続が一般的です。実家を1人が相続すると単独名義となり、2人以上で相続すると共有名義になります。
また兄弟がお金を出し合い、自分たちが住む家を購入するという珍しいケースも考えられるでしょう。ペアローンは組めませんが「現金一括払い」や、「一人が住宅ローンを組み、他の兄弟が頭金を支払う」などの方法であれば、購入できなくはありません。
2. 兄弟の共有名義がトラブルになる理由
兄弟の共有名義の不動産は、トラブルになりやすいと言われています。ここではトラブルが起こりやすい理由を以下5つ解説します。
- 不動産の活用や処分を巡るトラブル
- 税金負担のトラブル
- 維持管理費用のトラブル
- 勝手に持分を売却される
- 子供や孫がトラブルに巻き込まれる
2-1 不動産の活用や処分を巡るトラブル
共有名義の不動産は活用や処分の際にトラブルが生じやすいです。共有状態の不動産は、共有者の独断で、売却・賃貸・リフォームなどが行えません。
上記の行為を行うためには他の共有者の同意が必要となり、非常に手間がかかります。また不動産を担保にして金融機関から融資を受ける際にも、共有者全員の同意が必要です。
そのため、兄弟ごとに不動産の活用や処分の方針が異なると、それが元でトラブルに発展しやすいという認識は持っておきましょう。
2-2 税金負担のトラブル
不動産を所有しているだけで、固定資産税と都市計画税の納税義務が生じます。原則として税金は、持分割合に応じて負担割合が決まります。
しかし実際は、1人の共有者が他の共有者の税金を肩代わりするというケースは珍しくありません。法律としては税金を肩代わりしている場合、他の共有者に対して支払いを求めることが可能です。
支払いを拒否する場合は、裁判による強制執行もできます。ただ法的に問題ないとしても、強制執行までしてしまうと、兄弟の仲が修復不可能なまでに壊れてしまう恐れがあります。
また回収できるお金以上に弁護士費用がかかることも考えられます。
2-3 維持管理費用のトラブル
不動産をきれいに維持していくためには維持管理が欠かせません。管理を怠ると不動産としての価値が減少してしまい、売却時の価格が下がってしまいます。
維持管理は共有者の誰かが代表して行う、専門の業者に依頼することが一般的です。あらかじめ管理してくれる共有者に負担分の費用を払う、業者への委託費を平等に負担するといった取決めをしているのであれば問題ありません。
しかし維持管理費用の取決めをしていないと、特定の共有者だけに多くの負担がかかり、トラブルになりやすいです。
2-4 勝手に持分を売却される
共有状態の不動産持分は共有者の独断で売却が可能です。第三者に持分を売却されてしまうと、赤の他人と共有状態になってしまいます。
共有者は誰でも共有物分割請求訴訟を提起できるため、最悪のケースでは住まいを売却しなければならなくなります。
共有物分割請求訴訟とは、不動産の共有状態の解消を裁判所を通じて行う訴訟です。
裁判所の決定によっては不動産を売却し、売却金を共有者で分けることになります。そのため自己持分の売却は共有者の権利とはいえ、他の共有者の許可なく行うと関係が悪化する恐れがあるため注意しましょう。
2-5 子供や孫がトラブルに巻き込まれる
自分の代では共有名義の不動産が原因のトラブルが起きなかったとしても、相続によって子供や孫がトラブルに巻き込まれる可能性が高いです。
基本的に相続を重ねるごとに共有者が増えていきます。共有者が増えると、共有者同士の面識がなくなり、ほとんど赤の他人と変わらない方と不動産を共有することになります。
共有者が増えると処分や売却の方針で揉めたり、持分が第三者にわたり共有物分割請求訴訟を提起されたりと、トラブルが起きやすくなります。
3. 相続前にできる共有を回避する方法
相続前にできる不動産の共有を回避できる方法を以下4つ解説します。
- 遺産協議分割を行う
- 相続放棄をする
- 遺言書を残してもらう
- 家族信託
3-1 遺産分割協議を行う
次に解説する遺言書や相続人が遺言書の内容に納得していない場合は、遺産協議分割を行うことによって不動産の共有状態を回避できます。遺産分割協議とは、相続人同士で遺産の分け方について話し合うことです。
遺産協議分割では、以下3つの中から相続方法を選択します。
相続方法 | 概要 |
---|---|
現物分割 | 不動産をそのまま相続する方法 |
代償分割 | 相続人1人が不動産を相続し、代わりに現金などを他の相続人に支払う方法 |
換価分割 | 不動産を現金化し相続人で、お金を分ける方法 |
遺産協議分割の成立には相続人全員の行為が必要です。仮に相続人の中に行方不明者や隠し子がおり、その存在を知らずに行った遺産協議分割は無効となります。
また遺産協議分割に期限はありませんが、相続税の納付期限は被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内と定められています。協議がまとまらないと相続税の申告が行えなくなるため、あまり猶予がありません。
3-2 相続放棄をする
相続放棄によっても不動産の共有状態の解消が可能です。相続放棄を行うと資産と負債の両方を相続できる権利を失います。
相続放棄をすると、その方は初めから相続人ではなかったことになります。また相続放棄をした方の配偶者や子供、孫も相続人でなかったとみなされ、代襲相続が起きることもありません。
相続放棄は相続人の同意は不要で、家庭裁判所へ申述します。申告の期限は、被相続人の死亡を知った日の翌日から3ヶ月以内と定められており、相続開始前の相続放棄は認められていません。
3-3 遺言書を残してもらう
仕事が忙しい、兄弟の仲が悪いなどで話し合いができない場合は、被相続人(死亡した人)の生前に遺言書の作成を依頼しましょう。
遺言書にはいくつか種類があり、主に使われているものは以下の2つです。
遺言書の種類 | 作成方法 |
---|---|
自筆証書遺言 | 遺言者が遺言書の内容を全て手書きし、日時と名前を記入して押印する※財産目録はパソコンで作成可能。なおページごとに署名と押印が必要。原則として、家庭裁判所による県民が必要 |
公正証書遺言 | 遺言者が口述した内容を公証人が記述する遺言の原本は公証役場に保管される押印が必要 |
※自筆での遺言書作成が時代に合わなくなってきていることから、法務省はデジタル機器での遺言書作成を認める方針で検討を進めています。(2023年11月時点)
自筆証書遺言は遺言者の負担が大きいため、公正証書遺言での作成がおすすめです。なお公正証書遺言の作成には最低5,000円の費用がかかります。
3-4 家族信託
不動産の共有状態を解消する方法として、近年は家族信託が注目を集めています。家族信託とは、ご家族による財産管理の方法です。自分の財産を信頼できる家族に委託し、委託した方が代わりに財産の管理・処分を行います。
家族信託には3つの登場人物がいます。
- 委託者:不動産の所有者
- 受託者:委託者に代わり不動産を管理する方
- 受益者:不動産を管理・処分して利益を得られる方
家族信託によって委託者の意向に従い、財産を継承できるようになります。また信託契約の内容によっては、一次相続だけでなく二次相続対策も行えることが魅力です。
家族信託について詳しく知りたい方は、共有トラブルを家族信託で回避できる理由について解説した記事をご確認ください。
4.相続後の共有状態を解消する方法
相続後であっても不動産の共有状態は解消できます。その方法を以下7つ解説します。
- 土地を分筆して単独名義にする
- 共有者全員で不動産全体を売却する
- 共有者間で持分を売買する
- 共有者間で持分を贈与する
- 第三者に自分の持分のみを売却する
- 共有物分割請求訴訟を起こす
- 持分放棄をする
4-1 土地を分筆して単独名義にする
1つの土地を2つ以上に分筆し、兄弟それぞれの単独名義にすることで共有状態を解消できます。共有状態の土地であっても2つ以上に分けることによって、相続人それぞれの単独名義にすることが可能です。
4-2 共有者全員で不動産全体を売却する
共有者全員が協力し、不動産全体を売却することによっても共有状態を解除できます。ただし不動産全体の売却には、共有して全員の同意や印鑑証明書などが必要となるため、非常に手間がかかります。
4-3 共有者間で持分を売買する
共有者間で持分を売買し、1人の共有者に不動産の所有権を集中させることによっても共有状態を解消できます。
売買価格は市場価格に準じたものにしましょう。あまりに市場価格から離れていると、譲渡所得税や贈与税が課せられる可能性があるため注意が必要です。
4-4 共有者間で持分を贈与する
共有者間でも自分を譲渡して、1人に集約させることも有効です。持分の価格によっては贈与を受けた方に贈与税がかかります。
詳しくは最寄りの税理士や共有名義不動産に強みのある不動産会社に確認してください。
4-5 第三者に自分の持分のみを売却する
共有者との話し合いがまとまらない場合は、第三者に自己持分のみを売却することも可能です。前出のように自分の持分だけであれば、他の共有者の同意は必要ありません。
ただ他の共有者は第三者と不動産を共有することになるため、トラブルが生じやすくなります。そのため、共有者との関係が悪化してしまう可能性があります。
4-6 共有物分割請求訴訟を起こす
共有物分割請求訴訟を起こすことも1つの方法です。共有物分割請求訴訟の決定は法的拘束力があるため、強制的に共有状態を解消できます。
しかしこちらの方法も共有者との関係がさらに悪化してしまう可能性があるため、最終手段として活用するのが望ましいでしょう。
4-7 持分放棄をする
相続後であっても、自身の持分を放棄することで共有状態を解消できます。持分の放棄は他の共有者の同意が不要で、自分一人で行えます。
ただ他の共有者に相談なく持分を放棄すると、残された共有者に以下のようなデメリットが生じる恐れがあるため注意が必要です。
- 共有者に贈与税がかかる
- 第三者が放棄された持分を取得すると、共有物分割請求訴訟を提起される恐れがある
上記の理由から共有者との関係が悪化してしまうこともあり、可能ならば共有者に相談してから持分放棄することが望ましいです。
まとめ
この記事では、兄弟が不動産を共有名義で所有すると発生するトラブルや、共有状態を解消する方法について解説しました。
実家などを相続するときに兄弟の共有名義にしてしまうと、活用や処分方法や税金・維持管理費用の負担に関してトラブルが生じる恐れがあります。
また共有者が第三者に持分を売却してしまうと、共有物分割請求訴訟によって望まない形で不動産を売却せざる得なくなります。さらに共有名義の不動産は、相続が重なることにより共有者が増え、さらに複雑化してしまうことにも注意が必要です。
共有名義不動産のトラブルを避けるためには、知識のある専門家に相談することが一番です。共有名義の不動産を相続した方、共有者とのトラブルでお悩みの方は、共有名義不動産・共有持分を専門に取り扱う中央プロパティーへぜひご相談ください。
この記事の監修者
代表取締役 /
宅地建物取引士
CENTURY21中央プロパティー代表取締役。静岡県出身。宅地建物取引士。都内金融機関、不動産会社を経て2011年に株式会社中央プロパティーを設立。共有持分を始めとした相続トラブル・空き家問題の解決と不動産売買の専門家。主な著書に「[図解]実家の相続、今からトラブルなく準備する方法を不動産相続のプロがやさしく解説します!」などがある。