農地の売却が難しい理由とは|共有持分の基礎知識
農地の売却が難しい理由とは
目次
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農地の売却は難しいのか?
結論から申し上げると、農地の売却は難しいとされています。都道府県知事や農業委員会の許可がなければ勝手に売却できないことが大きな理由です。農地がどんどん減っていってしまったら、自給率もどんどん下がってしまいます。国民の食糧自給のためには非常に重要なものになるため、農地は勝手に譲渡したり、地目の変更をしたりできないようになっています(農地法1条、3条、4条参照)。
(目的)
農地法1条:「この法律は、国内の農業生産の基盤である農地が現在及び将来における国民のための限られた資源であり、かつ、地域における貴重な資源であることにかんがみ、耕作者自らによる農地の所有が果たしてきている重要な役割も踏まえつつ、農地を農地以外のものにすることを規制するとともに、農地を効率的に利用する耕作者による地域との調和に配慮した農地についての権利の取得を促進し、及び農地の利用関係を調整し、並びに農地の農業上の利用を確保するための措置を講ずることにより、耕作者の地位の安定と国内の農業生産の増大を図り、もつて国民に対する食料の安定供給の確保に資することを目的とする。」
農地法3条:「農地又は採草放牧地について所有権を移転し、又は地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利、賃借権若しくはその他の使用及び収益を目的とする権利を設定し、若しくは移転する場合には、政令で定めるところにより、当事者が農業委員会の許可を受けなければならない。…」
農地法4条:「農地を農地以外のものにする者は、都道府県知事(農地又は採草放牧地の農業上の効率的かつ総合的な利用の確保に関する施策の実施状況を考慮して農林水産大臣が指定する市町村(以下「指定市町村」という。)の区域内にあつては、指定市町村の長。以下「都道府県知事等」という。)の許可を受けなければならない。」
農地売却のために必要なこと
農地を売却するには2つの方法があります。
- 農地のまま売却
- 地目変更して農地以外の地目で売却
以下、それぞれについて見ていきましょう。
1. 農地のまま売却する方法
農地のまま売却する場合、売却先は農業を営んでいる者(個人・法人問わず)でなければなりません。加えて継続的に農業を営んでいるかなど、厳格な要件があるため、農地のままの売却は非常に難しくなります。
2. 地目を変更して売却する方法
地目を農地から変更することができれば1のような制限はないため、売却しやすくなります。
ところが、そもそも農地の地目変更自体も難しいのが現状です。農地の種類によってはそもそも地目変更ができない場合もあります。
農地区分 | 農地の利用状況等 | 転用の許可 |
---|---|---|
農用地区域内農地 | 市町村が定める農用地区域に指定された区域内の農地 | 原則不可 |
甲種農地 | 市街化調整区域内で8年以内に土地改良事業等の対象となった農地や生産性の優れた農地 | 原則不可 |
第1種農地 | 10ha 以上の広がりがある農地 農業公共投資対象農地 | 原則不可 |
第2種農地 | 農地から 500m以内に鉄道があるなど市街地近郊で市街化が見込まれる農地 | 状況により可 |
第3種農地 | 市街地内の農地、農地から300m以内に鉄道があるなど市街化の可能性が非常に高い農地 | 転用可 |
農地売却の流れ
農地売却の流れについて解説してきます。
農地のまま売却する場合
- 売却相手を探す(農業員会へ申請)
- 売買解約
- 仮登記
- 本登記(農地委員会の許可が出次第)
農地を売却するには農業委員会の許可が必要なので、売却相手を探すと同時に農業員会への許可を進めておくと手続きがスムーズになります。
地目変更し売却する場合
- 売却相手を探す
- 農業委員会に相談
- 都道府県知事(または農業委員会)に許可申請を出す
- 仮登記
- 本登記(許可が出次第)
農地のまま売却する場合と異なるのは、地目変更の手続きがあるか否かという点です。いずれにしても、専門的な手続きが絡んでくるため、詳しい専門家や、業者を利用するとよいでしょう。
農地売却のご相談事例
実際に当社に相談のあった事例をご紹介します。
私はお金に困っていますが、住んでいる家を売却したくはないので、先祖代々続く田畑を売却し、お金にできればと考えています。しかし、この農地はほかの兄弟との共有です。このような条件でも売却することはできますか。
公共の福祉による制限内であれば、基本的に自己の所有物は自由に処分することができますが、対象が田や畑のような農地の場合はその限りではありません。農地法によって所有権の機能に制限が加えられてしまっています。
ご相談者様の場合、共有状態のままでも売却自体は可能ですが、手続きが非常に煩雑になります。
農地法3条:「農地又は採草放牧地について所有権を移転し、又は地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利、賃借権若しくはその他の使用及び収益を目的とする権利を設定し、若しくは移転する場合には、政令で定めるところにより、当事者が農業委員会の許可を受けなければならない。…」
農地法4条:「農地を農地以外のものにする者は、都道府県知事(農地又は採草放牧地の農業上の効率的かつ総合的な利用の確保に関する施策の実施状況を考慮して農林水産大臣が指定する市町村(以下「指定市町村」という。)の区域内にあつては、指定市町村の長。以下「都道府県知事等」という。)の許可を受けなければならない。」
上記の通り、農地の処分をするには農業委員会の許可がいりますし、農地を農地以外にする場合には都道府県知事や市町村長の許可がいります。農地がなくなってしまうと、食物の生産性は下がり国民が食に困ってしまうという理由から、農地は簡単に処分、また、変更することはできない(公共の福祉による制限)とされているのです。
また農地を農地以外にする地目変更の中でも、市街化区域にある農地の転用は比較的容易と言えますが、市街化調整区域やその他の区域に存在する農地の転用は、県の農地転用許可が必要となるため、非常に難しい手続きになります。
土地の現状が農地以外の目的になってからすでに長年経っているような場合は、農業委員会から非農地証明を発行してもらって、地目を変更できる場合もあるため、ご確認いただくことをおすすめします。
例えば、登記の地目は「田」又は「畑」になっているのに現地の状態はコンクリートの駐車場になっていたり、土地の上に建物が建っていたりする状態です。こちらは比較的簡単な手続きで済みます。
地目種別 | 地目変更にかかる期間 |
---|---|
農地ではない土地 | 約1週間〜2週間前後 |
農地 | 全体で約1ヶ月前後 |
地目変更ができれば農地のままで売却するより売却しやすくなるため、ご検討いただくとよいかと存じます。
この記事の監修者
代表取締役 /
宅地建物取引士
CENTURY21中央プロパティー代表取締役。静岡県出身。宅地建物取引士。都内金融機関、不動産会社を経て2011年に株式会社中央プロパティーを設立。共有持分を始めとした相続トラブル・空き家問題の解決と不動産売買の専門家。主な著書に「[図解]実家の相続、今からトラブルなく準備する方法を不動産相続のプロがやさしく解説します!」などがある。