使用貸借は相続できるの?|弁護士Q&A
使用貸借は相続できるの?
目次
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使用貸借とは
使用貸借とは、「当事者の一方が無償である物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物について無償で使用及び収益をして契約が終了したときに返還をすることを約することを内容とする契約」です。
一言でいえば、ただで物や不動産を借りることを言います。
(使用貸借)
民法第五百九十三条 使用貸借は、当事者の一方がある物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物について無償で使用及び収益をして契約が終了したときに返還をすることを約することによって、その効力を生ずる。
使用貸借契約においては、貸主は原則として「いつでも」借主に対して契約を解除、物の返還を要求することができます。例外としては期間を定めている場合です。例えば親族ということで、父親が息子夫婦のために土地を無償で貸して、そこの土地上に建物を建てて住むような場合は簡単に返還を要求することができません。
また無償ということもあり、通常の賃貸借契約よりも保護される範囲は狭くなります。その代表例が借地借家法の適用の有無です。有償の賃貸借契約であれば、借地借家法の適用があるのに対して、無償の使用貸借の形式だと、借地借家法の適用はありません。
(趣旨)
借地借家法第一条:「この法律は、建物の所有を目的とする地上権及び土地の賃借権の存続期間、効力等並びに建物の賃貸借の契約の更新、効力等に関し特別の定めをするとともに、借地条件の変更等の裁判手続に関し必要な事項を定めるものとする。」
- この「賃借権」は有償で貸す契約のことを言い、「使用貸借」は含まれません。
使用貸借は相続の対象になる?
使用貸借は相続の対象になるのでしょうか。根拠となる条文を見てみましょう。
(期間満了等による使用貸借の終了)
民法第五百九十七条 当事者が使用貸借の期間を定めたときは、使用貸借は、その期間が満了することによって終了する。
2 当事者が使用貸借の期間を定めなかった場合において、使用及び収益の目的を定めたときは、使用貸借は、借主がその目的に従い使用及び収益を終えることによって終了する。
3 使用貸借は、借主の死亡によって終了する。
上記は使用貸借の終了原因について定めていますが、注目すべきは3項の「使用貸借は、借主の死亡によって終了する。」という点です。
使用貸借は借主が死亡すると終了し、相続されません。通常の賃貸借契約であれば、借主が亡くなったとしても、その地位を相続人が引き継ぎますが、使用貸借では、そのようなことはありませんので注意が必要です。
使用貸借関係は、貸主、借主の密接な信頼関係の上にあるのが通常です。そのため借り手が亡くなった場合にその地位を相続させるとことは適切ではないという考えが背景にあります。
ただし例外的に使用貸借が相続されることもあります。
- 死亡後利用できる旨の特約の存在
- 黙示の承諾
1. について
先ほどご紹介した民法597条は強行規定ではないため、当事者間で「借主が死亡した場合であっても、使用貸借は継続する」などの特約がある場合には、借主の死亡によって終了することはありません。
2. 黙示の承諾
借主が死亡し、本来であれば使用貸借契約が終了するにも関わらず、貸主が暗黙の了解で使用貸借を認めているような場合、黙示の承諾があったとして、使用貸借契約が終了しない(結果的に相続があったと同じ形)こともあります。
また、借主が死亡しても使用収益の必要性が失われないとして、使用借権の相続が認められると判断する裁判例もあります。
♦最判平成8年12月17日
判決要旨:「 共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは、特段の事情のない限り、被相続人と右の相続人との間において、右建物について、相続開始時を始期とし、遺産分割時を終期とする使用貸借契約が成立していたものと推認される。」
一方、貸主が死亡した場合、使用貸借の終了原因にはなりません。貸主の地位は、その相続人にそのまま承継されます。
使用貸借と相続税の関係
これまでに述べたように、使用貸借の場合、借主が亡くなった場合には、原則として相続されないので、基本的に相続税の問題は発生しません。
一方、使用貸借の貸主側に相続があった場合には相続税のことを考えなければなりません。例えば、土地を建物所有目的として無償で貸していた場合です。
有償である賃貸借契約よりも、無償の使用貸借契約の方が、相続税が高くなります。有償で土地を貸している場合、それは「貸宅地」となり、「自用地」よりもその評価額は安くなります。一方の使用貸借は、確かに貸してはいるものの、その分類は「自用地」に分類されるため、評価額は高くなってしまいます。
そこで、節税対策のために使用貸借を通常の賃貸借契約に変更しておくというのも一つの方法ですが、使用貸借を親子間でしている場合にはあまり意味がありません。結果的に相続財産を増やすことになり、相続が起きた場合にその分の相続税がかかってしまうためです。
当社にあった実際のご相談
父Aが死亡しましたが、子Bは生前父Aから使用貸借(タダで家を借りる)していました。
Aの死亡後他の相続人CDが使用貸借を解除する事を考えていますが、Bの同意は必要ですか?
C、Dの同意のみで使用貸借の解除をすることができます。
解説
使用貸借の終了原因についての法律(民法)上の規定は下記の通りです。
民法599条:「使用貸借は、借主の死亡によって、その効力を失う。」
借主が死亡した場合には、相続の対象とならず、使用貸借は終了しますが、貸主が死亡した場合は終了原因にならず、貸主たる地位は相続人に承継されます。
相続人としては無償で貸しているので、出て行ってもらいたいと思うでしょうが、使用貸借は貸主の死亡によっては終了しないのです。ただし、ある程度の期間が経過していれば、「目的に従った使用収益は終わったはずなので、返して下さい。」などの主張をすることができます。
民法597条2項:「当事者が返還の時期を定めなかったときは、借主は、契約に定めた目的に従い使用及び収益を終わった時に、返還をしなければならない。ただし、その使用及び収益を終わる前であっても、使用及び収益をするのに足りる期間を経過したときは、貸主は、直ちに返還を請求することができる。」
また本件の借主は共同相続人で、解除を求めているのも共同相続人です。共有物の保存行為であれば各共有者がすることが出来ますが、処分行為となってしまうと全員の同意がいることになります。
民法252条:「共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。」
参考判例を見てみましょう。
♦参考判例:最高裁和29年03月12日判決
判旨:「共同相続人の1人が相続財産たる家屋の使用借主である場合、他の共同相続人においてなす右使用貸借の解除は、民法第252条本文の管理行為にあたる…したがつて共有者(共同相続人)の過半数決を要する旨判示するところであつて…」
全員の同意がいるとしてしまった場合、Bはただで家を借りているので、通常同意するとは考えられません。そこで、管理行為とすることで、持分の過半数によるとし、問題解決を図っています。
この記事の監修者
弁護士
弁護士。早稲田大学法学部卒業。東京弁護士会所属。不動産の共有関係解消など相続と不動産分野の案件へ積極的に取り組む。主な著書に「一番安心できる遺言書の書き方・遺し方・相続の仕方」「遺言書作成遺言執行実務マニュアル」など。