【2023年最新版】共有名義不動産を賃貸に出す際に気を付けたいポイント
【2024年最新版】共有名義不動産を賃貸に出す際に気を付けたいポイント
共有名義不動産を賃貸に出す際には他の共有者から同意を得る必要があります。また、2023年4月1日の民法改正により、同意を必要とする行為の範囲が改変されました。
今回は、法改正のポイントも踏まえつつ、共有名義不動産を賃貸に出した際の注意点やトラブルを避ける方法について解説します。
共有名義不動産を賃貸に出したいと考えている方は、ぜひ参考にしてください。
<この記事でわかること>
- 共有名義不動産を賃貸する際の注意点
- 共有者の同意が必要なケース
- 賃貸借契約書のひな形
1. 共有名義不動産の賃貸には共有者の同意が必要
共有名義不動産を賃貸とする場合、他の共有者に同意を得なければなりません。賃貸に出す以外にも、建物修繕など細かな部分で共有者の同意が必要です。
本章では、共有名義不動産を賃貸として活用する際に必要な以下の内容について解説します。
- 共有者の同意が必要になる行為
- 2023年施行の民法改正で変わったこと
それぞれ見ていきましょう。
1-1 共有者の同意が必要になる行為
共有名義不動産では、対象に行う行為が4つに分けられます。その多くにおいて、共有者の同意を得なければなりません。詳細は以下表の通りです。
共有物の管理 | |||
---|---|---|---|
行為の種類 | 内容 | 具体例 | 行為の制限 |
保存行為 | 共有物の現状を維持する行為 | (1)共有物の修理(2)不法占拠者への明渡請求 | 共有者の持分価格の過半数で決定 |
管理行為 | 共有物を利用する行為 | 共有物を貸すこと | 共有者の持分価格の過半数で決定 |
変更行為(軽微な変更) | 形状または効用の著しい変化をともなわない行為 | (1)外壁や屋根の修繕(2)砂利道のアスファルト塗装 | 共有者の持分価格の過半数で決定 |
変更行為(軽微以外の変更) | 共有物の形もしくは性質に変化を与える行為 | (1)共有物の売却(2)別荘の増改築 | 共有者全員の同意が必要 |
上記の表は2023年4月1日に改正された最新の内容です。改正前は、軽微な変更であっても共有者全員の同意が必要でした。
しかし、所在が分からない共有者がいた際に変更行為ができないなどの問題が多発しました。そこで変更行為が細分化され、軽微なものに関しては共有者の持分価格の過半数で決定できるようになりました。より具体的な内容については、以降で詳しく解説します。
※持分価格=持分割合
2023年4月1日の法改正については以下のページで詳しく紹介しています。
▶︎民法改正で共有物の管理ルールが変更|共有不動産の所有者必見
それでは共有の同意が必要になる4つの行為について、それぞれ見ていきましょう。
1-1-1保存行為
保存行為とは、共有不動産の現状を維持するための行為です。具体的には以下のような内容を指します。
- 不動産の修繕(雨漏りの修繕など)
- 不動産の侵害に対する妨害排除申請
- 不法占拠者に対する返還請求
上記の行為は、共有者1人の意思で実行可能です。
1-1-2管理行為
管理行為とは、共有名義不動産を利用するための行為です。賃貸借契約の締結・解除は管理行為に該当します。共有者の持分価格の過半数の同意があれば実行可能です。
また、共有名義不動産を賃貸に出したいにもかかわらず、他の共有者が賛否を表明してくれない場合は、裁判所の判決によって管理行為が行えます。
1-1-3変更行為(軽微な変更)
変更行為のうち、形状または効用の著しい変化をともなわないものは軽微な変更とされ、共有者の持分価格の過半数の同意があれば実行可能です。具体的には、以下の行為を指します。
- 外壁や屋根の防水工事
- 砂利道のアスファルト塗装
- 共有名義不動産の分筆・合筆
こちらは法改正により改変された部分であり、以前は共有者全員の同意が必要でした。そのため、共有名義不動産が活用できない要因となっていましたが、改正後は裁判所の判決により軽微な変更が行えるように改善されています。
実際の民法に記されている内容は、以下のとおりです。
各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない。
:民法第251条1
1-1-4変更行為(軽微以外の変更)
形状や効用が著しく変化する場合は、共有者全員の同意が必要です。例えば、以下の行為が変更行為(軽微以外の変更)に該当します。
- 共有名義不動産全体の売却
- 大規模なリフォーム
- 長期間の賃貸契約締結
- 土地に建物を建てる
- 山林の伐採…など
ただし、自分の持分のみであれば、一人の意思で売却が可能です。このことは、民法第206条にも明記されています。
所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。
:民法第206条
1-2 2023年施行の民法改正で変わったこと
2023年の民法改正によって変更となった部分は以下の3つです。
- 軽微な変更に必要な共有者の同意数
- 短期賃借権の範囲の明確化
- 所在不明の共有者がいる場合の変更行為について
軽微な変更に関する内容については「1-1 共有者の同意が必要になる行為」をご参照ください。
短期賃借権について、改正前の民法では、短期の貸し出しにおいて共有者の過半数・長期では共有者全員の同意が必要でした。しかし、長期間の貸し出しに対する判断基準が明確ではなく、結局全員の同意が必要となるケースがほとんどだったのです。
また、同意を得ようとしても、そもそも共有者の所在が不明なケースもあり、不動産の利用がままなりませんでした。
これらの問題を解決するべく、改正法では短期賃借権の明確化と、所在不明者がいる場合の変更・管理行為に関する決定が見直されています。
改正によって設定された短期賃借権の範囲は以下の通りです。
:民法第252条4項
- 樹木の植栽又は伐採を目的とする山林の賃借権等…10年
- 「1.」に掲げる賃借権等以外の土地の賃借権等…5年
- 建物の借地権等…3年
- 動産の借地権等…6ヶ月
これにより、上記の期間を超えない限りは過半数の同意だけで短期賃貸借権が設定できるようになったのです。ただし、契約の際に更新がないなど、所定の期間内で賃貸借が終了する旨を明確にしている必要があります。
また、所在不明の共有者がおり、同意数が規定に満たない場合は、裁判所の決定により変更・管理行為が行えるように改正されました。
2. 共有名義不動産の賃貸でよくあるトラブル
共有名義不動産を賃貸として活用したために、その後トラブルに発展するケースはよくみられます。なかでも頻出するトラブルが以下の4つです。
- アパート経営の方針をめぐるトラブル
- 家賃収入の分配におけるトラブル
- アパート管理に関するトラブル
- 税金負担に関するトラブル
それぞれの内容と解決策について解説します。
2-1 アパート経営の方針をめぐるトラブル
アパートの経営方針をめぐって意見が対立し、トラブルに発展するケースはよく見られます。意見が対立する要因として、細かな行為において共有者の同意が必要といった共有名義不動産特有の性質があげられます。
例えば、出費が多額になりがちな建物の修繕などは、トラブルになりやすい項目です。トラブルを回避するために代表者を選出し、経営方針を一任すると決めていても、不動産管理にかかるランニングコストは原則持分割合に応じて共有者全員が支払うべきとされています。
そのため、結局トラブルへと発展するケースも少なくないのです。
解決策としては「アパート経営を外部に一任する」「共有状態を解消する」などの方法があります。
経営を外部に一任した場合、委託料が必要なため収益は減りますが、共有者間のトラブル発生確率は低くなります。
どうしても意見が対立して関係が悪化しそうな場合は、共有状態を解消するのもよいでしょう。共有名義不動産は、いつでも分割請求できると法律で定められています。
各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。ただし、五年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げない。
:民法第256条
ただし、分割請求できるのは「分割しない」と約束していない場合に限るので、注意しましょう。
2-2 家賃収入の分配におけるトラブル
共有名義不動産を賃貸に出した場合、家賃収入は持分割合に応じて分配されるべきとされています。
しかし、アパートの管理会社や入居者が共有者それぞれに持分割合に応じた家賃を支払うわけではありません。代表者に家賃が一括で入金され、各共有者に分配されます。ここで、代表者が他の共有者に家賃を分配せず、トラブルに発展するケースがよく見られるのです。
代表者が家賃収入を独占している場合、他の共有者は賃料の返還請求ができます。「不当利得返還請求」といい、裁判所に訴えが認められた場合、最大過去10年にさかのぼって強制的に家賃収入を取り返せます。
なお、共有者の名前が賃貸借契約書に明記されていなくても請求は可能です。共有名義不動産の賃料は、所有権から発生するものと考えられているためです。
2-3 アパート管理に関するトラブル
アパートの管理に関するトラブルも、共有名義不動産でよく見られるトラブルです。例えば、以下の管理業務に関してよくトラブルがみられます。
- 入居者の募集や審査
- 家賃回収
- 入居者のトラブル対応
- 建物のメンテナンス
- 契約更新時の説明
- 確定申告の経理作業
共有者同士で協力して分担できれば問題はありませんが、特定の共有者に負担が偏るケースがほとんどです。そのことで不満が募り、トラブルに発展します。
管理業務を放棄している共有者がおり、話し合いにも応じてくれない姿勢である場合は、早期に共有状態を解消してしまうのがよいでしょう。
2-4 税金負担に関するトラブル
毎年の固定資産税をめぐるトラブルは、共有名義不動産でよく見られます。
法律上、共有不動産に発生する固定資産税は、共有者全員が連帯して全額納付する義務があります。実際、地方税法第10条2項にも明記されています。
第10条の二
共有物、共同使用物、共同事業、共同事業により生じた物件又は共同行為に対する地方団体の徴収金は、納税者が連帯して納付する義務を負う。
2 共有物、共同使用物、共同事業又は共同行為に係る地方団体の徴収金は、特別徴収義務者である共有者、共同使用者、共同事業者又は共同行為者が連帯して納入する義務を負う。
:地方税法第10条2項
共有名義不動産の場合、固定資産税は代表者1人に対して納付書が届き、一括して支払ったのち、代表者が他の共有者に請求するのが一般的です。
しかし、共有者のなかには請求に応じない方もいます。連帯納付義務があるため、代表者は、未納者の分も固定資産税を支払わなければなりません。このようなことが連続して発生し、トラブルに発展してしまうのです。
共有者が固定資産税の支払いを放棄している場合、代表者は請求権の行使により負担分を請求できます。
ちなみに、家賃収入による所得税は各共有者が確定申告をするため、代表者が一括で申告したり支払ったりということはありません。
3. 共有名義不動産の賃貸借契約書
賃貸借契約書とは、第三者に物件を貸し出す場合に締結する書類です。雛形は、国土交通省のホームページからダウンロード可能です。
実際は賃貸借契約書を取り交わさなくても物件を貸すことはできます。しかし、のちのちのトラブルを回避するためにも、必ず取り交わしておきましょう。
ここからは、賃貸借契約書の役割や、作成する際のポイントについて解説します。
3-1 賃貸借契約書の役割
賃貸借契約書には、賃借人・共有者とのトラブル防止や、トラブル発生後の円滑な解決に導くための役割があります。
賃貸借契約書を締結せずに賃貸物件として貸し出した場合、仮に賃借人が許可なくペットを飼育し、その飼育が近所迷惑になるようなものであっても法的には問題がないとされてしまうのです。
一方、賃貸借契約書を取り交わしており、内容にペットの飼育を禁ずるとしていれば、飼育をやめるように伝えられます。
ペットは一例ですが、賃貸借契約書は、このような賃借人とのトラブルを防止・解決する際に役立つのです。
3-2 賃貸借契約書作成のポイント
賃貸借契約書を作成する際には、以下のポイントに留意しましょう。
- 必要な事項は追記する
- 共有者全員の氏名を記載する
- 専門家のリーガルチェックを受ける
それぞれ解説します。
3-2-1 必要な事項は追記する
国土交通省からダウンロードできる雛形には、必要最低限の内容しか書かれていません。そのため、項目を適宜追記する必要があります。
例えば、以下のような内容があげられます。
- ペットの飼育
- 生活音の配慮
- 転貸(又貸し)の禁止
- 義務範囲
上記の項目は雛形に載っていないため、必要に応じて追記しましょう。
3-2-2 共有者全員の氏名を記載する
賃貸借契約書には、代表者だけでなく、共有者全員の名前も記載しましょう。全員に同意を得ているから、代表者名だけ記載すればよいとするのは推奨しません。他の共有者から「賃貸借契約を認めていない」とあとから意見される可能性も考えられるためです。
共有者間でトラブルが発生した場合、借主にまで迷惑がかかってしまう可能性もあります。賃貸借契約書には、共有者全員の氏名を明記し、押印してもらうのを推奨します。
3-2-3 専門家のリーガルチェックを受ける
賃貸借契約書を作成したら、必ず弁護士・司法書士・行政書士などの専門家に内容を確認してもらいましょう。
素人だけで書類を作成した場合、不備や法律に違反する内容が記載されてしまっている可能性があるためです。ときには、契約書としての効力がない書類を作ってしまう場合もあります。
国土交通省の雛形を変更せずに使用すれば基本的に不備はありませんが、項目の追記や削除をした際に不備が発生するケースがみられます。書類の不備や法に反する記載は、トラブルの原因にもなりかねません。必ず専門家によるリーガルチェックをうけましょう。
なお、賃貸借契約書のリーガルチェックは、2〜5万円が相場とされています。
まとめ
共有名義不動産を賃貸に出す場合、短期間であれば共有者の半数以上、長期間は全員の同意が必要です。2023年までは長期・短期の基準があいまいでしたが、法改正によって3年より長い場合は長期と判断できるようになりました。
共有名義不動産を賃貸に出せば家賃収入を得られるといったメリットがある一方、共有者同士でトラブルになり、関係性が悪化する可能性もあります。
関係性がこじれて修復不可能にまでなった場合は、共有状態を解消してトラブルを回避する方がよいでしょう。
中央プロパティーでは、トラブル解決を含めた共有名義不動産の売却を専門としています。共有名義に精通しているスタッフがおり、提携している弁護士や司法書士も共有名義に明るい方々ばかりです。
共有名義不動産を賃貸に出すにあたって不安がある、すでにトラブルへと発展して共有状態を解消したいと考えている方は、中央プロパティーへご相談ください。
この記事の監修者
弁護士
弁護士。東京弁護士会所属。常に悩みに寄り添いながら話を聞く弁護方針で共有物分割や遺留分侵害額請求など相続で発生しがちな不動産のトラブル案件を多数の解決し、当社の顧客からも絶大な信頼を得ている。