共有物分割請求よりも全員で売却|弁護士Q&A
共有物分割請求よりも全員で売却
ご相談内容
大阪市北区にある、亡くなった父と母が遺した築30年になる物件についてです。姉と私の二人で相続し、遺産の遺産分割協議書の作成も済ませました。そして持ち分1/2で登記も完了しています。
誰も住んでいない空き家ですので、亡き母の3回忌が済んだら売却しようという話でした。
が、姉は愛媛在住で、たまに大阪に帰ってきて使う都合があるためか、売却に反対の意思を示しました。
そこで、共有持分を姉が買い取るという申し出が以前あったものの、実際の買い取る行動には消極的です。
昨年秋に買取の話が出たにもかかわらず、実際行動に移さないため、こちらとしては調停か裁判を起こすことも検討していますが、裁判費用や費やす時間を考えると、なるべく避けたい選択ではありますので、今回私の共有持分だけ売却したいと考えています。
ご相談のポイント
- 共有物分割の方法
- 共有者間で意見が纏まらないとき
①共有物分割の方法
民法上、各共有者は、原則、いつでも他の共有者に対して共有物分割請求を行なうことができるとされています(民法256条1項本文)。
共有物分割の方法は、大別すると、(1)現物分割、(2)代償分割、(3)換価分割の3種類があります。
但し、本件のように共有の対象物件が1棟の建物である場合は、(1)の現物分割は物理的に困難であるため、(2)あるいは(3)が選択肢となります。
ご相談者様が当初検討されていた、第三者に建物全体を売却するという方法は、(3)の換価分割に、お姉様から申出あった、共有持分をお姉様が買い取るという方法は、(2)の代償分割に、それぞれ該当します。
しかし、いずれの方法も、あくまで共有者間の合意に基づき行なわれるものであり、共有者間で意見が纏まらない限り、それ以上前に話を進めることはできません(また、(2)の代償分割に関しては、購入する側において、買い取る意思だけでなく、現実に買い取れるだけの経済的な資力も必要になります)。
共有者間の意見が一致しなければ、結局、共有者の望まない形で、現状の共有関係が固定化されてしまいます。
②共有者間で意見が纏まらないとき
共有者間で意見が纏まらず、また、これ以上の協議・説得も困難と判断したときに、各共有者が取れる対応は、事実上2つの選択肢に絞られます。
その1つは、共有物分割請求訴訟を提起することですが、既にご相談者様が懸念されている通り、共有物分割請求訴訟を起こすとなれば、裁判に費やす時間・費用の面で大きな負担が生じます。
さらに、ご相談者様とお姉様が、法廷の場で原告・被告の立場に分かれて争うことになるので、最終的に不動産の共有関係は解決できたとしても、お姉様との個人的な関係性が決定的に悪化するリスクが高いです。
共有物分割請求訴訟を選択する場合は、これらの負担・リスクを予め理解した上で進める必要があります。
もう1つの選択肢は、現在ご相談者様がご検討されている、共有持分を第三者に売却するという方法です。
ご自身の共有持分を第三者に売却することについては、他の共有者の同意は不要です(民法206条)。
共有持分を第三者に売却する場合、売却の時点で共有関係から離脱するので、それ以降は、お姉様との間で共有物分割の協議や裁判を行なう負担から解放されます。
不動産の全体売却の実現よりも、早期のトラブル解決にプライオリティを置いている方の場合は、共有持分の第三者への売却を選択されるべきでしょう。”
まとめ
共有者間で共有物の分割方法について協議が困難なときに、各共有者が取れる選択肢は、大きく分けて、共有物分割請求訴訟を提起するか、自身の共有持分を第三者に売却するか、いずれかになります。
共有物分割請求訴訟を提起する場合は、裁判に費やす時間・費用の負担の問題の他、共有者間の個人的な関係性が決定的に悪化するリスクについて、予め認識しておく必要があります。
共有持分を第三者に売却する場合は、売却した時点で共有関係から離脱し、それ以降の相手共有者との間の共有物分割の協議・裁判の負担から解放されます。
いずれの方針を選択するかを検討する際は、まずは、ご自身の中の優先順位が何にあるのかを整理することが重要です。
この記事の監修者
社内弁護士
当社の専属弁護士として、相談者の抱えるトラブル解決に向けたサポートをおこなう。
前職では、相続によって想定外に負債を継承し経済的に困窮する相続人への支援を担当。これまでの弁護士キャリアの中では常に相続人に寄り添ってきた相続のプロフェッショナル。