離婚後も持分を売らせたくない
離婚後も持分を売らせたくない
目次
ご相談内容
相談者:40代女性
結婚後、夫と共有名義で家を建てました。私は頭金として1,000万円出して土地、建物持分各4分の1を保有しています。
現在は離婚調停中で、夫は家を出ていき、私と子どもはそのまま共有名義の家に住み続けています。住宅ローンは夫が支払っています。
どうやら夫は、お金に困っているようで最近になって養育費を減額されました。
先日、夫が自分の持分を売却しようとしていることを知りました。良い防止策はないでしょうか?
ご相談のポイント
- 夫婦共有の担保物件の共有持分の売却
- 住宅ローン債権者との関係
- 配偶者間の関係
- 住宅ローン債権者が名義変更を承諾しない場合
①夫婦共有の担保物件の共有持分の売却
各共有者は、共有持分を、他の共有者の同意なく自由に売却できるのが原則です。(民法206条)
しかし、本件のように、共有物件が住宅ローンの担保物件で、住宅ローン残があり、かつ、財産分与前のケースの場合は、共有持分の売却には、様々な側面からの制約が生じます。
②住宅ローン債権者との関係
まず、住宅ローンを完済する前に、ローン債務者が、住宅ローン債権者に無断で、債務者名義の担保物件を第三者に売却することは、住宅ローン債権者との関係で契約違反となります。
この場合、契約違反を理由に、最悪、住宅ローン債権者から、ローン残の一括返済を求められるリスクもあります。
したがって、一括返済に対応できる準備が整っていない限り、少なくとも、住宅ローン債権者の了解も得ずに夫が持分を売却することは考えにくいです。
③配偶者間の関係
次に、夫婦が婚姻中に共有名義で購入した不動産は、夫婦共有財産として、離婚時の財産分与の対象となるのが原則です。
そして、法律上、夫婦間での財産分与の割合は、登記上の持分割合に関わらず、原則は2分の1ずつとなります。
但し、本件のように住宅ローン残がある場合は、アンダーローンかオーバーローンかで、財産分与上の扱いが異なります。
(1)アンダーローンの場合
アンダーローンであれば、物件の価値と住宅ローン残の差額が、財産分与の対象額となります。
この場合、ご相談者様が財産分与の対象額の2分の1を代償金として夫に支払うことで、夫の共有持分を取得し、物件をご相談者様の単独名義とすることが可能です。
夫に対して養育費・慰謝料等の金銭債権がある場合には、これらと相殺する形で、代償金の支払いを減額できる余地もあると思われます。
もっとも、これだけでは、住宅ローンの債務者は夫のままであり、夫がローンの返済をストップすれば、競売になってしまう恐れがあります。
そこで、住宅ローン債権者と交渉して、住宅ローンの名義も変更しておく必要がありますが、ご相談者様の資力・返済能力が十分でないと、住宅ローン債権者が名義変更に応じてくれないリスクがあります。
(2)オーバーローンの場合
オーバーローンの場合は、物件の資産価値がゼロとみなされ、財産分与の対象から外れます。
財産分与の対象とならない場合は、夫の共有持分を取得することに対する代償金の支払いは不要です。
もっとも、夫のローン滞納による競売リスクを避けるために住宅ローンの名義変更が必要になる点や、資力が不十分であると名義変更を住宅ローン債権者が承諾しないリスクがある点は、(1)と同様です。
④ローン債権者から名義変更の承諾が得られない場合
住宅ローン債権者から名義変更の承諾が得られない場合の対策としては、ご相談者様名義で借り換えのローンを組み、夫の住宅ローンを完済するという方法が考えられます。
この場合は、夫に対して、ご相談者様が立て替えて返済したローンを求償する権利が発生します。
まとめ
夫婦共有物件が住宅ローンの担保となっていて、かつ、ローン残が存在する場合、ローン債権者に無断で持分を売却すると、一括返済を請求されるリスクがあります。
また、婚姻中に夫婦共有名義で購入した不動産は、原則として財産分与の対象となりますが、物件がアンダーローンかオーバーローンかで、取り扱いが異なります。
但し、財産分与をしただけでは、住宅ローンの名義はそのままになってしまうので、併せてローンの名義変更を行なうことが望ましいですが、ローン債権者が名義変更を承諾しない場合には、ローンの借り換えを行なうことが検討されます。
この記事の監修者
社内弁護士
当社の専属弁護士として、相談者の抱えるトラブル解決に向けたサポートをおこなう。
前職では、相続によって想定外に負債を継承し経済的に困窮する相続人への支援を担当。これまでの弁護士キャリアの中では常に相続人に寄り添ってきた相続のプロフェッショナル。